幻・想・熱・帯・雨・林

Twin Spotted Cricket/双星蟋蟀

 双星蟋蟀、日本ではクロコオロギなどとも呼ばれているこの昆虫は、もっとも最初にペットトレードの現場に姿を現したコオロギでしょう。もう十年以上前のことになりますが、アロワナ用の餌として熱帯魚店などで販売されていました。
 ヨーロッパイエコオロギと比べ僅かな違いですが独特の臭いがあり、それが嗜好性を誘う、というような話もあります。その差は良く分からないのですが、実際に東南アジア原産の大蜥蜴の餌付け段階では、ヨーロッパイエコオロギには興味を示さなかった個体が、フタホシを入れたら食いついた、という事を経験しています。
 もともと東南アジアなどの亜熱帯原産とされる種ですから、現地で食べていたのかもしれません。Gryllus bimaculatusという学名がありますが、殆どの人は学名を覚えていないでしょうし、覚える必要性もおそらくないでしょう。

 餌として販売されるものは25mm前後ですが、熱帯では大変大きくなり30mmを越すことも在るといいます。此は育成環境の違いと云うよりも、高温高湿度、食物の心配のない環境で何百、何千代と世代交代をした結果、自然淘汰の結果として大きい個体が生き残り、そうした個体群になっているものだと予想されます。現在の養殖場の環境が熱帯に負けるものだとは思えませんし(空間の問題はあるかもしれませんが……)。
 実際、フタホシコオロギを養殖しているプロフェッショナルは、何年も代を重ねるうちに、フタホシコオロギが次第に大型に、ライフサイクルが短くなってきた、と仰有ってました。言葉通り、販売されてるコオロギは他で目にするものより大きかったです。

 フタホシコオロギは羽が茶色のものと、羽を含めた全身が真っ黒のものの二種類がありますが、此は亜種や個体群という訳ではなく、茶色の養殖過程で出て来ていた黒色タイプのものを選別交配して養殖しているそうです。
 自然下ではフタホシコオロギはもともと黒く、故にクロコオロギと呼ばれていた訳で、僕としては最初に養殖された茶色のフタホシコオロギがどこから来たのかが気になるのですが。

 断水、断食に極めて弱く、体内の水分が平常値より十パーセント以上少なくなると餌食いが悪くなり、更に少なくなると共食いに走ります。
 共食いは水不足の時だけではなく、餌に蛋白質が少ない時、個体密度が高くなった場合も起こります。この三点が、フタホシ飼育では最重要課題となります。
 この様に、とにかく殺し合いが起こりやすい、獰猛さを持つコオロギで、養殖の手間は相当なものであると思います。この凶暴性から、中国では闘鶏ならぬ闘蟋(とうしつ、と読む)が存在するのだとか。この古くからある趣味が、江戸以前の日本に知られなかった筈もないと思うのですが、日本には定着しなかったようです。日本人好みではなかったのでしょうか?

 高めの湿度を欲し乾燥には弱い反面、空気の淀みに大変弱く、通気性の悪いケースで飼育をすると次々に死亡していきます。死体は特有の悪臭を放ち急速に腐敗し、悪循環の温床となり、またある種のショウジョウバエが湧く苗床となってしまいます。また、幼体は水滴からの脱出能力が極めて低く、霧吹きをしようものなら大量死滅が起こりますので、水やりにも難儀します。

 とまぁ、弱点が多く、当然ながら養殖に手間が掛かるフタホシコオロギですが、其れでも養殖されるのには、フタホシコオロギに他に代え難い利点があるからでしょう。先述した、他の蟋蟀との食いの違いもその一つですが、やはり一匹あたりのボリュームが圧倒的に多い、ということが最大の理由ではないかと思います。
 単純な価格で見るとヨーロッパイエコオロギの方が安価かと思われる蟋蟀価格ですが、実は一匹当たりの大きさがフタホシコオロギの方がずっと大きく、重たい為、グラムで調べてみるとフタホシコオロギの方が安いんじゃないか? という事がままあります(販売業者にも依るでしょう)

 フタホシコオロギを餌として使う人は、一度養殖とまでは行かずとも飼育ぐらいは経験として通過しておくべきでしょう。また、ストック期間に豊富に餌を与えていないと、飼育生物に与えようとケースに入れた時、空腹から飼育生物に襲い掛かる可能性が極めて高いです。